Genelec 8330 導入 & 人気スピーカー比較レビュー
先日Genelec 8330 を導入しました!
導入するにあたり、いくつかのスピーカーと比較検証したので、
その辺りをがっつりめに、Genelec 8330の使用感などレビューしたいと思います。
目次
スピーカーを替えるきっかけ
2019年、事業を本格稼働するにあたり当時発売されて間もないFocal Shape50 を導入して4年弱愛用してきたのですが、
このところ帯域ピークの判断に迷う、あるいは時間が掛かることが多くなり、『もう少し解像度の高い環境がほしい』という気持ちになってました。
Shape50は60Hz以下の重低域や10kHz以上の超高域がロールオフされた柔らかいサウンドで、中域の解像度が高く心地よく聴ける製品ですごく良かったんですが、
クラブミュージックは当然のことながら近年はPOPSでも50Hz以下の重低音が重視されることと、そういったバランスの音源が増えていることでShape50では再生しきれないところに歯痒さがありました。
また、リスニング用途としても人気のShape50はアタック感が柔らかく、どんな音もそれなりに聞こえてしまうとこがあり、
ミキシングを主用途にしている私の場合、『音の良し悪しの判断をもう少し正確に行いたい』ということもあり、買い換えようと決断しました。
比較製品
今回比較検証のためにRock oN 梅田店さんにお邪魔して試聴させていただきました。
終始丁寧な対応で機材知識も豊富で、ほしい音を伝えると明確におすすめしてもらえるので非常に助かりました。
関西在住の方は是非お立ち寄りください。
https://www.miroc.co.jp/news/umeda_store_info/
試聴したのは
Focal ST Solo6 | ペア実売35〜37万円程度 |
Neumann KH80 DSP | ペア実売15〜17万円程度 |
Genelec 8330AP | ペア実売25〜27万円程度 |
でした。
もっと数を聞ければ良かったのですが、在庫都合や長時間試聴で聴き疲れもあり、この3製品となりました。
なお、これより比較検証や使用感をレビューしていくのですが、当然のことながら完全な主観であることと、あくまでRock oN 梅田店さんでの試聴と、私の部屋で検証した内容であることを申し上げます。
スピーカーの音(というよりスピーカーとルームアンビエンスが合わさった音)は、設置する環境によって大きく変化いたしますので、
このレビューで書いたことがどの環境でも当てはまるものではないことをご理解いただければ幸いです。
また、なるべく多くの方の参考になるようにフラットな視点で各製品に感じたメリットデメリットを記載するよう努めますが、
最終的にGenelec 8330を選択してるので、私自身は8330に良い印象を持ってることが前提とご留意ください。
Focal Shape50 VS Focal ST Solo6
最初に比較したのがFocal ST Solo6、というのも今回の本命がST Solo6でした。
勝手にShape50のサウンド傾向をグレードアップしたものと思い込んでいたのもあるんですが、
Focal製品はどれもデザインが秀逸でして、ピュアオーディオ感あるST Solo6に憧れたのもあります。
音を聞いてみると、良くも悪くも結構な違いがありました。
良かった点
- 60Hz以下の重低域、10kHz以上の超高域も正確に聴こえる
- 特に高域は繊細に聞き取れる
- 重心が下がって全体のレンジを広く捉えれる
- 定位感が3製品でダントツ(他製品比較後)
気になった点
- 音源によっては高域のチリチリや2〜4kのシュゥゥゥ音が目立つ
- 中域(500〜800Hz)辺りにへこみがある
- 6インチのためちゃんと聞くにはある程度音量が必要
- コスパが悪い(値上げが…)
- でかすぎて今の机に置けない
ST Solo6 総評
帯域のレンジの広さや解像度の全体的な印象は圧倒的にST6が上だったので最高だったんですが、
中域の解像度という点では、楽器の芯が集中する中域がスッキリしていて聴き心地が良いのがリスニング的すぎるかも、という印象でした。
Shape50よりもリスニング用途に振った感があり、バランスを正確にモニターしたいという私の本来の用途から外れる気がしました。
また、実際見ると想像よりでかく、今作業してる机にはぎりぎり置けないサイズ感だったことも
躊躇する要因の一つでした。
とはいえまだST6が本命なので、他と比較して決断しようということになります。
Focal ST Solo6 VS Neumann KH80 DSP
続いて最近人気のKH80をST6と比較しました。
この試聴の前日にTwitterでおすすめスピーカーを募ったときもKH80が良いという声を複数いただき、
16万前後というコスパの良さも相まって、期待して試聴しました。
良かった点
- 4インチなのにST6より低域多く聴こえる
- 解像度もワンランク上の価格帯と同等
- 現代的なサウンド、中域の押し出し感が気持ちいい
- 奥行きも細かく把握できる
- 圧倒的コスパ
気になった点
- 低域の重心が少し上にあり(100〜150Hz)音源によっては濁る
- サイズ以上の鳴り方が逆に無理して鳴ってる感がある
- 音源によっては男性ボーカルがこもっていた
KH80 総評
全く逆の方向性の2つを比較してみて、スピーカー選びの重要さを改めて実感しました。
これだけ出音が違うと、そりゃミックスの判断の変わるよなぁと。
ST6は6インチというサイズもさながら、重量も1個13kg(6インチの平均8〜9kg)とかなり重いのですが、
そういった物理的な重さがスムーズな低域出力に繋がっているように感じられ、表現が難しいですが、違和感なく低域を感じることができました。
40〜200Hzまで真っ直ぐに繋がって聴こえる印象です。
それに対しKH80は4インチとは到底思えない低域で、今回比較した中でも80〜150Hzあたりが一番出ていました。
逆に60Hz以下はShape50と同様すっぽり抜けた感があり、200〜300Hzあたりでは少し濁りがあるようにも感じました。(あくまでST6と比較時)
中高域〜超高域に掛けての解像度、定位感、はさすが人気製品という感じでShape50より確実に上。
価格帯を考えれば文句は一切ないのですが、
低域〜中低域に若干濁りを感じた部分で自分には合わないかな、という判断になりました。
そして同時に、ST6の36万円という価格もかなりネックに感じるようになってました。
半額以下のKH80でこの解像度だとすると、36万円の価値はどうだろう、と。
2023年4月にFocalは値上げしていて、ST6の前モデルであるSolo6 Beは実売24万円前後でした。
Shape50も私が購入した2019年当時は12万円ほどでしたが、現在定価が18万円ほど、実売で13〜15万円という感じです。
こういった事情も考えると、ST6は非常に良い製品ですがこのタイミングではないなと判断しました。
KH80も個人的に相性が良くないかもと思ってしまったので、他製品を検討することになりました。
ここで店員さんに勧められたのがGenelec 8330でした。
Neumann KH80 DSP VS Genelec 8330AP
Genelecの音は以前Shape50を購入する時に4インチの8020を聴いた以来でした。
その時の印象は”やたら低域出るなぁ”と今回のKH80と似たような印象だったので、売れてる製品とは知りつつもそこまで本検討はしてませんでした。
8330は5インチで8030にDSP補正がついた製品とのことですが、内部パーツは8030より若干良いものを使ってるとのことで、基本スペックも若干上です。
良かった点
- アタック感が3製品でダントツ。歯切れよく元気な音
- 解像度はKH80と同じぐらいだが低域の繋ぎがよりスムーズ
- 50Hz以下もしっかり聴こえる
- 帯域バランスに凹凸を感じない
気になった点
- 空間と定位の把握はST6に一歩劣りKH80と同等
- 超高域がスムーズなのでピークを把握しずらい可能性あり
- 音疲れしやすい
8330 総評
Genelecの特徴としてアタック感の強さがあると思います。
元気な音でバシバシくる。でも痛さは感じない。という感じで非常にモニター的。
一番スタジオっぽい音だなという印象でした。
KH80と比較して良かったのは低域のスムーズさで、過去8020で感じた違和感もなく、低域をある程度慣らすにはやはり5インチは最低限必要なのかなと思いました。
KH80がGenelecを意識しているのかはわかりませんが、帯域バランスで似てる部分が多く、中域より上のバランスの差は少なく感じました。
ざっくり言ってしまうと、KH80の帯域の凸凹を平坦にしてアタックを強調したもの、という印象です。
8330は人気製品ということもありレビューも多く、試聴しながら色々みてたんですが、
否定的なレビューも結構ありちょっと不安な部分もありました。
共通して言われていることは、低域の付け足した感、明瞭さがない、定位感がぼやけ気味、リバーブの残響が弱い、など。
確かに定位感はKH80と比べて良いとは言えない感じでしたが、明確に劣るような印象もなく、
低域に関してはKH80の方が個人的に違和感があったので、自分が扱う分にはあまりマイナスにならないかな、と判断しました。
最終的に、今回の買い替えの狙いだった
『低域を明確に把握したい』
『解像度を上げて良し悪しの判断を明確にしたい』
を高水準で満たしてるな、と感じたので8330を導入することにしました。
4製品比較ランキング
スピーカーの特徴を判断するための基準をいくつか考えたときのShape50も含めたランキングはこんな感じ。
帯域レンジの広さ
- ST solo6
- 8330
- KH80
- Shape50
帯域全体のフラットさ
- 8330
- KH80
- ST solo6
- Shape50
低域のスムーズさ
- 8330
- ST solo6
- KH80
- Shape50
中域の濁りなさ
- ST solo6
- Shape50
- 8330
- KH80
高域の明瞭さ
- ST solo6
- KH80
- 8330
- Shape50
定位と空間の明瞭さ
- ST solo6
- KH80
- 8330
- Shape50
トランジェントの明瞭さ
- 8330
- KH80
- ST solo6
- Shape50
コストパフォーマンス
- KH80
- 8330
- Shape50
- ST solo6
非常に僅差に感じる部分も多々ありましたが、順位付けるとすればこんな感じになります。
総じてShape50が下位ランクになってますが、決して悪い製品ではなく中域〜中高域に限定すれば解像度も高いので
気持ちよく作業できますし、聴き疲れしにくいのもメリットだと思います。
試聴比較しながら何度も、”やっぱShape50聴きやすいなぁ”と感じてましたし、以前は同価格帯だったADAMのA5Xより個人的に好きな音ですね。
コスパで圧倒的なのがKH80ですね。人気なのも納得です。
自分も絶対20万円以内で収めないと死ぬという状況なら、迷わずこれにしています。
ST6は値上げさえなければすごく良い製品だと思いました。
気になった中域のへこみもキャリブレーションすれば問題ない範囲になると思います。
ただ36万円の音かと言われると疑問が残りました。
とにかく値上げがえぐい。
GLM Studioでキャリブレーション
無事8330を購入し自宅に設置。
早速DSP機能であるGLM Studioを使用しました。
キャリブレーションが目玉機能なので使い勝手など結構気になっていたんですが、
試聴時は試せなかったので自宅で初めて触りましたが、率直な感想として、かなり使いにくいと感じました。
測定自体は二回スイープ音が鳴るだけ(結構な音量)なのでラクなんですが、補正はあくまでも補正で、劇的なフラットを得れるわけではありません。
私はずっとSoundIDを使っているのですが、SoundIDの補正具合の体感半分ぐらいです。
MIXレベルもなくON/OFFのみ。
帯域手動補正も数値入力するパターンのUIでちまちましてます。
あわよくばSoundID外せるかなと思ってたんですが、無理だったのでちょっとがっかりしました。
GLM測定 一回目
ご覧の通り、完全に補正されてるとは言えません。
聴いた感じも低域の回り込みが多少軽減されたぐらいで、全体的な輪郭がぼやけていて作業できるような音ではありませんでした。
自分の部屋が低域が回る特性なのは分かっていたので、ある程度は覚悟してたのですが、SoundIDの補正具合と比べてしまうと、見劣りしてしまいます。
なのでここから更にSoundIDで補正して、ようやくなんとかなるレベルにはなりました。
インシュレーター探し
しばらく音を聞いてましたが、なんかどうも低域を制御できてない感じと試聴の時に感じた高域のシャキッと感があまりないように思い、
インシュレーターも買い替えようと思い立ちました。
これまではオーテクのAT6099を使ってたんですが、性能は価格相応というか、劇的な改善とは思えなかったので。
そこからまた後日Rock oNさんにお邪魔して、人気のDMSD50/DMSD60と比較した結果、TAOCのMSIP-14GS8を購入。
これは最近発売された製品でまだ全然出回ってないとのことですが、DMSD50と遜色ない効果があったのでコスパ重視でこれにしました。
https://store.miroc.co.jp/product/85670
DMSD50 | 実売4.6万円 |
MSIP-14 | 実売1.3万円 |
MSIPを設置後は低域の暴れも軽減され、中域より上の輪郭がはっきりしました。
GLM測定 二回目
測定でも、50以下の不自然な低域が改善され、100付近のディップも軽減されています。2〜3kのバラツキも抑えられています。
いくつかミックス作業もしましたが、ピーク把握が分かりやすくなって作業時のストレスもかなり軽減されました。
DTM初心者の方の中にはインシュレーターに対してピンときてない方もいらっしゃると思いますが、4インチ以上のスピーカーなら必須といえます。
特にMSIPは価格以上の違いを体感できるのでおすすめです。
私は非常に気に入ったのでスタック使用するためにもうひとセット購入することにしました。
DMSD50買える額で3セット買えるので、一つじゃ物足りんという時も3個スタックすればDMSD50より効果が出ること間違いなしです。(半分冗談です)
ボリュームコントローラーが便利
作業時に意外と便利だったのがGLM付属のボリュームコントローラー。
0.5dB単位の調整ができて作業時の細かい音量調整に最適です。
私が所有してるオーディオIFはPrismSound Lyra1なんですが、これは2dBのステップ調整しかできず不便で、細かい調整はSoundIDのアプリでしてたんですが、
毎回画面出すのも面倒だったので、手元で細かい調整ができるコントローラーは痒い所に手が届く存在でした。
ジャンルの相性はあるのか
多くのレビューで言われているようにEDMや最近のK-POPと相性は抜群です。
自宅をクラブになります。
Lets PARTYYYYYY!!! ウィィィィィィ!!!!!! なノリになります。
近所迷惑は覚悟しないとですが。
アコースティック系は苦手かというとそうでもなく、私はBlackmore’s Nightが好きで試聴でもリファレンスの一つとして使ったんですが、
アコギの煌びやかさもきっちり表現してくれますし、フレットノイズもしっかり拾って臨場感あり、
重厚な低域でキックやリバーブを余すことなく感じれて迫力あるサウンドが楽しめます。
個人的に特にジャンルは選ばないかなと思ってますが、
しっとり聴くには向いてないので、ジャンルというより状況に依ると思います。
寝る前に音楽で癒されたい〜ってときに選ぶスピーカーではないことは確かです。
アプローチの変化
8330に換えてからいくつかミキシングを行いましたが、インストの低域に対するアプローチがかなり変わりました。
50Hz以下を明確に聞き分けできるようになったことで、その辺りが薄いバランスの音源は途端に物足りなさを感じるようになりました。
特に自宅環境で制作された音源はこの辺りが薄いことが多く、そういった場合にWavesのSubmarineなどサブベース生成プラグインで補強するようにしています。
低域を増やせば良いというものではないですが、現代的なバランス、洋楽的なバランスを作る上では必須の考え方だと思うので、
そういったバランスを作りたい人にはおすすめできる製品です。
まとめ
今回の環境変更で諸々合わせて30万円弱という決して安くない買い物でしたが、時間を掛けた甲斐もあり、満足いく結果となりました。
単に音を判断するためのツールではなく、自分が表現したいことができるのか、自分の感じ方と近い鳴り方をしてくれるのか、というのは実際に聴いてみないとわかりません。
レビューを書いておいてなんですが、個人的にスピーカーのレビューの信頼度は30%ほどだと思っていて、音に対する感じ方は本当に人それぞれです。
人気があるから良いもの、他人の評価が良くないから悪いもの、ではなく、『自分に合うかどうか』を第一要素に選ぶと満足できるということを改めて実感しました。