日本製の万能コンプ、VoosteQ Material Comp をレビュー
素晴らしいコンプが登場しました。
今回紹介するのはVoosteQ(ブーステック)の「Material Comp」です。
海外でも高い評価を得ていて注目されているようです。
主な特徴は次のとおり。
◆特徴
- 6つのコンプレッサータイプ
- 6つのプリアンプのサチュレーション
- 8つのアナログ回路のシミュレート
- 4つのグルータイプ
- オーバーサンプリングに対応
- GUIの視認性が良い
- CPU負荷が低い
まさにコンプに求める全てが詰まったような製品です。
実際に音を聴いてもらえば分かりますが、サチュレーションで積極的な音作りから、
非常に透明な処理まで表現の幅がとにかく広いです。
では詳しく見ていきます。
GUI
まず、GUIが綺麗でありながら特徴的です。
上部はハイエンドプラグインに採用されているような視認性の高いアナライザーになっていて、
コンプのリダクションが正確に把握できるようになっています。
最新のアップデートによってメータースケールを-60dB〜-10dBで可変できるようになっており、
例えば、マスタリングでは細かいレンジでリダクションを確認したい、といった用途に便利です。
グラフ左側にカーソルを移動させるとメーターの色も変更できるのもいいですね。
ただ、若干色が暗いのでもう少し明るくなればなぁと感じました。
下部にはパラメータが並んでいますが、目を引くのがポップなアイコン。
後述するコンプモードやサチュレーションの切り替えができるようになっており、
効果が分かりやすいグラフィックスなので音作りも素早く行えます。
コンプに苦手意識がある方にも楽しんで使ってもらいたいというデベロッパーの意思が見え隠れしてるように感じます。
Comp Mode
Comp Modeではコンプレッション方式を6つから選択できます。
- Modern : 独自のモダンなサウンド。素材を選ぶことなく素晴らしい質感が得られる。
- 60’s FET : 定番FETコンプのモデリング。オリジナル同様、非常に早いアタックと粘り気のあるリリースが特徴。
- Luxe VCA : 近年発売されたVCAコンプのモデリング。全タイプで一番クリアなサウンド。
- Studio Master : 独自のマスターバス用のサウンド。強く掛けても歪みが発生しない。
- OPTO : オプティカルコンプのモデリング。ハードウェア特有の暖かさと緩やかなアタックが特徴。
- TUBE : 真空管コンプのモデリング。通しただけでごく僅かな歪みが発生。
ツボを押さえたモード選択で、切り替えもスムーズです。
レシオとアタックリリースは同じ設定で、モードだけ切り替えたサンプルを作ってみたので聴いてみてください。
効果が分かりやすいようにリダクションは10dbほどにしています。
・バイパス
・Modern
・60’s FET
・Luxe VCA
・Studio Master
・OPTO
・TUBE
それぞれ特徴があって使い所もイメージしやすいですね。
他社比較として、同じようにモードを複数選択できるコンプはFabfilterのPro-C2が浮かびますが、
Pro-C2よりもアタックの残り方が気持ち良く、現代的な音にしやすいと感じました。
モード切り替えによる音量差も少ないので、切り替えながら最適なモードを選びやすいのも助かります。
Preamp Spice
Preamp Spiceでは、サチュレーションのキャラクターを選択できます。
- Harmonic : 素材を選ぶことない繊細なアナログサウンド
- Analog : わずかに太くなるよう設計されたサチュレーション
- Smoggy : 60年代ビンテージのパーツで組んだオリジナルのプリアンプのサウンド
- Tape : テープエミュレーション
- Class A HOT : クラスAを使用した暖かいサウンド
- Class A COOL : クラスAを使用した暗めのサウンド
こちらもサンプルを作ってみたんですが、コンプモードは歪みのないStudio Masterにしておいて、
サチュレーションのMIXレベルを100〜0〜100と動かしながら歪み方を確認しています。
・Harmonic
・Analog
・Smoggy
・Tape
・Class A HOT
・Class A COOL
こちらもそれぞれ特徴がありつつも音質が良いので、素材との相性を考えて最適なものを選択できます。
AnalogやClass A HOTはお手軽に迫力が出せるので個人的にかなり好みです。
この時点でもサウンドキャラクターの幅がかなり広いことが分かるかと思うんですが、
更に幅広く音作りできるのがMaterial Compのすごいところです。
Analog Flavor
Analog Flavorはコンソールのモデリングです。
- Rich Buffer : 30万円以上のバッファーを通したサウンド。トランス回路による明瞭さも追加
- N-Type : 英国製大型コンソール”N”を通したサウンド
- S-Type : 英国製大型コンソール”S”を通したサウンド
- USA M Console : USA製ミキサーを通したサウンド
- British Green : 緑のハードウェアで有名な英国製コンプレッサーを通したサウンド
- Cheep Console : チープなUSA製ミキサーを通したサウンド
- 60’s Surf : 60年代ビンテージハードウェアを通したサウンド
- Analog+ : オーディオケーブルのみを通したアナログの空気感を付加するサウンド
具体的には緩やかなハイパスやローパスに加え若干のブーストとカットが各モデルの特徴に合わせて掛かっているようです。
これも非常に自然にアナログ感を付与してくれるので、
わざわざチャンネルストリッププラグインを別途インサートしてアナログ感を加えずとも、
Material Comp内で完結できます。
Glue Magic
Glueとは接着剤という意味で、バスコンプやマスターコンプで
各楽器の繋がりを良くする効果を指します。
- Studio Console: 英国製コンソールのマスターバスをモデリング
- Aggressive Pumping : ポンピング効果を付加
- Pop Tune : リダクション量に応じて明るいサウンドに
- Deep Bass : 低音が強調されているサウンドに最適
マニュアルによると、
”コンプレッサーを調整した後にさらに馴染ませたい時などに10~50%辺りで調整するのがオススメ”
とのことです。
Mixをあげていくと粘り気が出てきて独特のグルーブ感が出てきます。
過度に上げると破綻してしまうので、マニュアルのとおり50%までに留めておいた方がよいかと。
Special Section
Special Sectionではかなり強力な3つのパラメーターを搭載してます。
- Punch : 入力信号を検出してより強いアタックを付加。ボーカル、ドラム、ピアノなどに効果的
- Groove : 入力信号を検出して最適なグルーヴを付加。マスター以外にドラムやギターにも効果的
- Imager : 低域に影響を与えず中域以上をステレオに広げる
各パラメーターの効きが強く、
特にPunchはその辺のトランジェントシェイパーよりも”欲しいところ”を気持ち良く持ち上げてくれます。
例えば、Comp Modeの”60’s FET”は1176のモデリングだと思いますが、デフォルトだとそこまで似てなくてあっさりな感じです。
ところが、PunchとGrooveをある程度持ち上げることで一気にそれっぽくなります。
PreampやGlueなどの他のパラメータも組み合わせると、かなり近い感じになります。
試しに手持ちの1176モデリングコンプのArtriaのFET-76と比較したサンプルを作ってみました。
・Arturia FET-76
・Material Comp 調整前
・Material Comp 調整後
いかがでしょうか。
パラメータ調整前後でComp Mode、スレッショルド、レシオ、アタック、リリースという基本数値は同じになっています。
質感の調整だけでここまでできるコンプは中々ないんじゃないかと思います。
その他のポイント
・Additional Section、Master Section
- Knee
- Peak/RMS
- Range
- Noise
- SC Filter
- Auto Gain
- FeedBack
- MS Mode
- Stereo Link
- Over Sampling
最近の多機能コンプには搭載されている機能は概ね揃っている感じです。
FeedBackはあまり見慣れないパラメータですが、
コンプレッサー の検出動作をFeedfowardからFeedBackに変更し、ビンテージ回路を再現するモードとのことです。
・役立つプリセット
非常に幅広く万能なMaterial Compですが、万能故に音作りに迷ってしまうかもしれません。
そういうときは69種類のプリセットからイメージに近い名前のものを選ぶと効率的に音作りできるかと思います。
プリセットはどれも使いやすく設定の参考になります。
・分かりやすいマニュアル
日本のデベロッパーなので当たり前という視点を除いても、日本語マニュアルが非常に分かりやすいです。
設定のポイントなど詳細に記載されているので、使い方に迷うことはまずありません。
・CPU負荷
特徴にあるとおりCPU負荷は軽く動作も軽快です。
Analog FlavorをONにすると多少負荷が上がりますが許容範囲。
オーバーサンプリングの負荷は僅かでコンプの効きもスムーズになるので、基本的にONでの使用をオススメします。
まとめ
クリーンなサウンドから豊かなサチュレーション、攻撃的なアタックや粘っこいグルーまで
コンプで考えうる表現はこれ一つで作れてしまうという超万能な製品です。
リダクションを深く掛けても音が破綻しないので、積極的に音作りする場面や、
マスタリングでトランジェントを失いたくない場面などあらゆる状況に対応できる製品ではないかと思います。
デメリットがあるとすれば、プリセットの項でも書いた”万能ゆえの器用貧乏感”ですが、
マニュアルをしっかり読めば使い方は分かりますし、何より音質が良いので使いたくなるかと思います。
あとはアナライザが若干暗いところだけ改善されれば完璧じゃないのかなと。
2020年3月31日まではイントロプライスで149ドルが89ドルとなっています。
気になった方は14日間フリートライアルがあるので、是非試してみてください。